TREATMENT

心臓血管外科

当科では、年間に約150例以上の弁膜症手術を行っており、良好な手術成績を収めています。下記に当科で主に扱っている代表的な弁膜症疾患と弁膜症手術をご紹介します。

<当科で行っている主な弁膜症手術>

  • 大動脈弁疾患に対する大動脈弁置換術(外科的大動脈弁置換術、経カテーテル的大動脈弁置換術
  • 大動脈弁輪拡張症や大動脈解離に対する大動脈基部置換術、自己弁温存大動脈基部置換術
  • 僧帽弁疾患に対する僧帽弁形成術(低侵襲手術含む)、僧帽弁置換術
  • 三尖弁疾患に対する三尖弁形成術、三尖弁置換術
  • 感染性心内膜炎に対する弁膜症手術(大動脈弁、僧帽弁、三尖弁)

<心臓弁膜症とは>

心臓には「左心房」「左心室」「右心房」「右心室」の4つの部屋があります。それぞれの部屋の間には「弁」が存在します(図1)。これらの4つの「弁」に機能障害が起こると体に悪影響が出現することがあります。機能障害には血液が弁を通過する際の抵抗が大きく通過しにくくなってしまう「狭窄症」と、血液が本来戻らないはずの方向に逆流してしまう「閉鎖不全症」と呼ばれる状態があります。1つの弁だけでなく、同時に2つや3つの弁に障害が及ぶこともあり、これらを連合弁膜症と呼んでいます。

心臓の解剖

図1:心臓の解剖

<心臓弁膜症の症状>

軽度の弁膜症では自覚症状が出現しないことも多々あります。しかし、弁膜症が進行してくると、坂道や階段を上った時に息切れを感じたり、また胸痛、ふらつき、失神が出現したりすることもあります。顔や手足のむくみの出現、横になると呼吸が苦しくなり横になれない状態になることがあり、これらは重症のサインです。まれに突然死することもあります。また、弁膜症を発症すると心臓にも大きな負担がかかり、不整脈を合併することもあります。一般的には弁膜症はゆっくり進行することが多いですが、自覚症状が認められなくてもかなり病状として進行してしまっていることも少なくありません。重症化すると治療しても治りにくくなるため、重症化する前の段階で適切な治療をすることが大切です。

<代表的な弁膜症>

代表的な心臓弁膜症についてご紹介します。

大動脈弁狭窄症

大動脈弁は「左室」と「大動脈」の間にある「弁」で、通常3枚の弁尖から成っています。大動脈弁狭窄症は、弁尖が石灰化を起こし硬くなることで弁の開閉が制限され(図2)、そのことによって息切れや胸痛、失神などを発症する疾患です。加齢、動脈硬化を原因としたものが多いとされていますが、生まれつき大動脈弁が2枚しかない2尖弁の方は、比較的若年で発症することがあります。
治療としては、大動脈弁置換術があります。硬くなった弁尖を切除して、新たな人工弁(生体弁、機械弁)を縫着する手術です(図3)。近年では、経カテーテル的大動脈弁植え込み術(TAVI)させるも普及してきており、今まで外科的動脈弁置換術を受けることが困難であったご高齢の方でも治療を受けることができるようになってきました。ただし、TAVIの長期成績は不明のため、すべての方に行うわけではなく、主に80歳以上の方や合併症の多い方にお勧めしています。

  • 石灰化を起こし、硬化した大動脈弁

    図2:石灰化を起こし、硬化した大動脈弁

  • 生体弁を用いた人工弁置換術

    図3:生体弁を用いた人工弁置換術

大動脈弁輪拡張症

上行大動脈の拡大により大動脈弁輪が拡張している疾患です。大動脈弁輪が拡張していることで大動脈弁閉鎖不全症が発症する可能性や、大動脈が拡張していることで大動脈破裂を起こす可能性もあります。2尖弁の方やマルファン症候群の方に多く発症します(図4)。治療としては、大動脈弁から拡大した大動脈までを生体弁と人工血管に置き換えてしまう大動脈基部置換術と、自己の大動脈弁は温存して拡大した大動脈のみを人工血管に置き換える自己弁温存大動脈基部置換術があります(図5-6)。自己弁温存大動脈基部置換術は高度な技術を要しますが、人工弁置換術を回避できることが最大の利点です。当科では、温存可能な病変であれば、特に若年の方には積極的に自己弁温存大動脈基部置換術を行っています。

  • 大動脈基部の拡大例

    図4:大動脈基部の拡大例

  • 自己の大動脈弁を温存

    図5:自己の大動脈弁を温存

  • 温存された自己弁

    図6:温存された自己弁

僧帽弁閉鎖不全症

僧帽弁は「左房」と「左室」の間にある「弁」で、通常2枚の弁尖から成っています。僧帽弁閉鎖不全症は、様々な理由(腱索の断裂、弁輪の拡大、感染性心内膜炎など)から前尖と後尖の接合に不具合が生じ、心臓が収縮する際に「左室」から「左房」に向かって血液の逆流が生じる疾患です。逆流が高度になれば、息切れなどの心不全症状が出現してきます。
治療としては、自分の「弁」を修復(弁尖の切除&縫合や弁輪リングの縫着)する僧帽弁形成術(図7)、修復が困難であれば人工弁(生体弁、機械弁)を縫着する僧帽弁置換術があります(図8)。近年では、小さい傷(右肋間小開胸)で手術を行う低侵襲手術(MICS)での僧帽弁の手術も普及してきており、当科でもMICSが可能な病変、体型であれば積極的に行っています。

  • 僧帽弁形成術

    図7:僧帽弁形成術

  • 生体弁を用いた僧帽弁置換術

    図8:生体弁を用いた僧帽弁置換術

<人工弁について>

人工弁には金属やカーボンでできた「機械弁」と呼ばれる種類(図9)と、牛の心臓を覆っている膜や豚の心臓の弁を加工して作られた「生体弁」と呼ばれる種類(図10)があり、それぞれの特徴があります。機械弁の耐久性は非常に高く長持ちしますが、血栓や体の組織により弁の動きが制限され機能不全を起こすことがあります。このためワーファリンという血液をサラサラにする薬を、量を加減しながら(定期的な採血が必要です)飲み続ける必要があります。生体弁は血液が固まって機能不全を起こすことはまれで、基本的にはワーファリンという薬の内服は必要ありませんが、弁そのものが徐々に劣化していくため10年から20年で再度手術が必要になることがあります。

  • 機械弁による弁置換術

    図9:機械弁による弁置換術

  • 生体弁による弁置換術

    図10:生体弁による弁置換術

ホーム
臨床について
心臓弁膜症